ポトン・バビ...見るべき事
インドネシア語で“ポトン”は「切る」、“バビ”は「豚」、だから“ポトン・バビ”とは「豚の屠殺」という意味になる。
さて、バリでは儀礼の振る舞い料理に豚肉を多用する。ポトンされたバビは、肉は勿論、血から内臓まで余すところなく使われて、ラワールをはじめとする様々なバリ料理に変化する。
そして、このポトン・バビがバリ中で行われるのが、ガルンガンの前日。今回は、このガルンガンという日本でいうところのお盆のような祖霊祭が滞在半ばにあり、ポトン・バビにも立ち会うことが出来た。
ポトン・バビは、男の仕事である。しかもハレの日のご馳走にありつけるのだから、男達は嬉々としてこの作業に従事する。この村ではこの日、七匹ほどの豚がポトンされた。作業は、川べりのマンディ(沐浴)場で行われる。
まず、手足を縛られた豚がトラックで運び込まれた。荷台の上で数人の男達に押さえ込まれた豚の喉元にナイフが突き刺さる。あっという間の出来事。死を悟った哀しい叫び声にグッとくる。喉から鮮血をほとばしらせながら、諦めたような瞳に見つめられた。その血に勢いがなくなった頃、その瞳からも輝きが失われていった。思わず合掌。
こうして、豚肉となった豚は川べりに運ばれ、体中の毛を焼かれる。椰子の殻のカケラで汚れをきれいにこそげとられ、切り裂かれた腹からツルンと内臓が取り出される。その後、村の男達は手慣れた手つきで解体をしていく。つまり、バリの成年男子はみんな豚の解体が出来るわけだ。解体された肉は、均等にそれぞれの部位が行き渡るように分配される。腸は、後に腸詰めに使われるため、川で洗われる。なんだか優雅な眺め。
さて、こうした一連の作業をする男達の傍らには、小さな子供たちが遊びながら全てを見ている。当たり前のようにそこに居る。残酷...?否。私に子供は居ないから分からないけど、きっとこれは「見るべき事」なのではないかと思った。しかも、出来れば子供のうちに...。自分たちが何を食べて生きているのか...、生きるために何をしているのか...、そういった事をキチンとわきまえて成長していかなくてはいけないのではないか。スーパーでプラスチックのトレイに入った食肉からは、大切なものが見えてこない。大人になってからでは、ストイックなベジタリアンになりかねないし、それはそれで何かバランスが悪いと思う。
バリの人達の、生きるための絶妙なバランス感覚はこうした小さな頃から育まれているのだなぁと心から羨ましく思った。
ところで、持ち帰られた肉は、すぐに各家庭で調理される。生肉のラワールはその日のうちに消費されるし、トントンと作っているそばから、内臓や脂の切れ端やらをじっくり油で揚げた“まかないスナック”は、絶品の旨さ。あぁ、豚さん、君は隅々までおいしいよ。ありがとう!
これからもたくさんの感謝をこめて「いただきます!」
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