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秋谷ちゃん
秋谷ちゃんは三浦半島の西側に住んでいます。苗字は横須賀さんです。お父さんは山の向こうの軍港のそばで鉄工所を経営しています。軍隊の仕事もしています。
そちらのおうちでは、工員さんやその家族の人もたくさんいて、にぎやかなのですが、秋谷ちゃんは離れのほうでで、あまり自己主張も強くない末っ子として、ひっそりと成長してきました。
お父さんはアメリカ帰りの長井のお姉ちゃんや、観音崎のおじさん、猿島のお兄さんのように秋谷ちゃんを世に出そうと思っているのですが、内気な秋谷ちゃんは少しやだなと思っています。
秋谷ちゃんの一番のお友達は、葉山さんで、お隣に住んでいます。おうちはアパート経営、同じ年頃です。
葉山さんは家柄がとてもよくて、それでいて気取らない性格なので良いお友達なのですが、秋谷ちゃんのほうが少し可愛いのと、お父さんの仕事のことで秋谷ちゃんにちょっと意地悪なときがあります。
秋谷ちゃんは、おうちがスーパーをやっていて、少し年上の逗子さんとも知り合いです。お買い物もかねて、よく遊びに行きます。
お父さんが東京の会社の重役さんだという鎌倉さんは、顔は知っているのですが、ずっと年上だし、とっても気位が高い人なのでので、あまりそばに寄らないことにしています。
あとは農家の三浦さんとも仲の良いお友達です。すいかや大根をよくもらいます。
秋谷ちゃんは将来は長者が崎に小さな料金所を作って自分で一人暮らしするか、葉山さんのお兄さんのお嫁さんでもいいなと思っています。
秋谷ちゃんはよそから来た人には「葉山さんときょうだい?」とかよく聞かれるのですが、葉山さんの親戚の人からは、家柄が違うんだし、おそろいみたいな麦わら帽子をかぶってうちの子より可愛くしてはだめ、といわれ、一緒に遊ぶのを反対されています。
秋谷ちゃんのお父さんも絶対お嫁にはやらないというので、
秋谷ちゃんは今日も海を見つめて小さなため息をつくのです。でも、すぐに海岸のオレンジ色のカンナの花をひとつつまんで、元気に浜辺を、夕日に向かって波打ち際まで駆けてゆきます。
なーんてね。 |