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新年会を行った建物について、もう少し詳細を記します。
御用邸を含む一色海岸にほど近いエリアは、葉山の中でも、古き良き時代の葉山を感じさせてくれる貴重な場所です。玉塚栄次郎の別荘もその一角に建っています。昨今は、日本会席料理の「音羽楼」という店として活用されてきました。
この別荘は、昭和2年、玉塚証券の玉塚栄次郎が創建しました。
床がかなり高い木造平屋で、屋根はスレートの平葺きです。御用邸を手がけた鈴木組によって建てられたせいか、雅でゆったりとした印象がかもし出されています。玄関から奥座敷までが一直線に続き、客人に対する主人の懐の深さを感じさせる空間構成だと思います。夏の別荘だったせいか、ゆったりと心から寛げるおおらかさがあり、和めます。
洋間のアンティークなイメージの窓枠や、和室の欄間、床の間、造り付けのソファーや照明器具、それらの全てに創建者と建築を手がけた鈴木組の一流のセンスが感じられます。
こんなに素晴らしい歴史的建造物ですら、一瞬にして壊され、マンションや分譲地に開発されてしまいます。どうしてそんな事になるんでしょう?
かけがえのない日本的な美しい物を、次の世代に伝えていけないのは、今の日本人が日本的な美しさに鈍感になっているのではないでしょうか?
文化や芸術は、経済の論理には当てはまらないのですが、だからと言って「しょうがない」で済ませてしまっていいんでしょうか?
この雅な空間には、やはり雅で古典的な柄の柔らか物が似合います。逆に言えば、そうゆう着物は、歴史のある日本的な空間じゃなければ映えません。町並みや環境が変われば、着物の柄も変わっていくと思います。光や陰影が変われば、着物の持つ奥行きも価値観も変わります。
それが時代の流れ....とは言え、脈々と培ってきた日本の文化を、たかだか戦後60年程の経済論理でぶち壊してしまっていいのでしょうか?
私は、今を生きる日本人として、やれるだけの事を頑張りたいと思います。
そして、財力があり、文化芸術に理解のある救世主が現れる事を、切実に心のどこかで願っています。
※この建物は、葉山町の助成金を得て、2005年に「葉山の別荘vol.1」として、DVD化されました。制作は地元のNPOである「葉山環境文化デザイン集団」が行い、私も演出として関わりました。葉山町の図書館などで貸し出しされているはずです。 |