嗅 覚

il pilata_01:a full moon
●地中海の満月

il pilata_02
●満月を独り占め気分の場所
「匂いに釣られて」


 前にその近くを通った時、にんにく&オリーブオイルのいい匂いがしていたんだ
 それは、アマルフィ海岸のPraianoという小さな町に宿をとった三日目の夜。

 南イタリアのアマルフィ海岸は、南の海と太陽に面して、複雑な海岸線がスコンと崖になって海に落ちている。車で走っていると、ポツリポツリと小さな町が現れる。町は、恐ろしいほどの急斜面に、家と階段と屋根と小道が積み木のようにキチンと積み上がっている。宿から海岸まで降りようと思ったら、延々と階段を降りなくてはならない。一度、散歩がてら海岸まで歩いて降りていった時、深い入り江に漁師さん達の小舟が浮かび、何軒か飯屋が点在していた。夕方の海風と一緒に、イカを焼いたようなソソられる匂いが漂ってきていた。Praianoは、アマルフィ一帯の中でもあまり観光化されていない町で、人口だって2000人に満たない漁師の町だ。そんなある意味、垢抜けていない雰囲気が、妙に和んで心地いい。
 三日目の夜、どこぞでメシを...と、深い理由もなくあの入り江のいい匂いがした辺りに足が向いていた。いい匂いのモトは、海に面した“イルピラータ”という店だった。洗練されてはいないけれど、いい素材をそのまま料理した素朴な味。人当たりのいい気さくなおっちゃん。地形をそのまま利用したシンプルな店の造り。ワインだってでっかいデキャンタにどっかんと出てきて、水みたいに安い。極楽だ。

 ふと見ると、空にポッカリと満月。海はキラキラと月の光に輝いていた。
やーん、特等席ぢゃん、ここ。
単に匂いで釣られて入った店で、オマケをいっぱい貰ってしまった。嬉しい瞬間。

 こんな経験をする度に、情報を捨てて五感を研ぎ澄まそう...とココロに誓う。
 そうは言っても、情報過多のこのご時世には難儀な課題であるのだが。


back視覚味覚聴覚触覚Top